”いざという時!” とは?:BCPが使えなくなる事態にならない仕組みづくり

業務マニュアルや手順書などの中で ”~という時” や ”〇〇の場合” という記述があります
ある条件に対して、取るべきアクションを事前に示しておくのがマニュアル等の基本です

事業継続計画(BCP)は、事態発生で受けた被害から、早期に事業を継続させるための計画です
BCPを使うようになる条件は、事業が中断するような非常事態の発生が一般的です

ところが、いざ事態発生という時にBCPが使えなくなることがあります
BCPだけでなく、マニュアル等も同じように、存在するけど使えないときがあります

今回は、この ”いざという時” の考え方についてのお話です

■ BCPなどが使えなくなる

画像

何らかの事象発生でもBCPやマニュアル等が使えなくなることがあります
それは・・・

” 今が、いざという時!” と認識できていないとき "

そんなことは考えが及ばないことかと思いますが、あり得る話です

地震災害の場合、大きな揺れで被害が発生することで ”いざ!” の到来を認識できます
それによって、BCPを発動し、人命等の保護、受けた被害の復旧、事業の早期再開の活動を開始します

でも、事態や被害の発生を認識できない場合はどうでしょう

例えば、昨今の為替レートや物価高、それに伴う業績への影響は、災害に比べて緩やかな動きをします
その結果、動向を注視しつつ、打てる手段を講じることで事業の危機を回避する行動に出ます
そして、打つ手がなくなる頃になって初めて、事業の非常事態だと認識することになります

このような状況において、どの時点が本当の非常事態の発生だったのでしょうか?
そして、そのような事態を想定し、対策や対処手順などが準備されているでしょうか?

BCPなどで示している戦略や計画内容が使えなくなるポイントがここにあります

① どのような条件をもって、事業の非常事態だと判断するのか
判断材料として、日頃から何を・どこを注視・監視する必要があるのか

    それを受けて・・・

    ③ どのような状況・どの時点で、対処の開始を決心するのか

    引き金の引き時 ”トリガー条項” とも呼ばれる、ある条件に対する対応基準がなければ、例のような事態になります
    BCPなどが使えなくなる原因は、”今が、いざという時” と認識・判断する仕組みがないことです
    引くべき条件を定めていない引き金(トリガー)は、いつまでたっても引かれることはありません

    ■ ”いざ!” という定義を作る

    画像

    どのような状態・状況になったら対処を開始するのか
    その時に使う戦略や計画は、どのように選択して使うのか

    ポイントは、非常事態の発生・事業の危機の到来を可視化することです

    1.事業の存続に脅威となる要素の定量化・数値化

    事業の継続が困難になる状態や状況変化ごとに定量化・数値化します
    例えば、次のような要素ごとに定量的・数値的して把握できるようにします

    • 施設や設備:稼働の状態、安全面や衛生面の質など
    • 生産や製造:仕入れの状況、水やエネルギーの状況など
    • 物量や配送:流通運輸の状況、自社車両の稼働状態など
    • 顧客:顧客ニーズの変化、顧客の減少や不存在など
    • 人員:事業主や必要資格者の不存在、従業員の不足など
    • 心証:悪い口コミの存在、経営陣や従業員の勤務意欲の状況など

    2.それらの脅威が引き起こされるリスクの洗い出し

    それらの脅威が何によって引き起こされ、程度の度合いや発生の頻度などを把握します
    この際も、可能な限り定量的・数値的して把握できるようにします
    これにより、事業の脅威となる要素が、どのようなリスクと関係しているかが明確になります

    • 自然現象:地理特性、気候や気象の変動
    • 社会現象:政治と経済の動向
    • 人為的な変化:需要と供給、人流と物流の変化
    • 業種業態別の変化:業界、同業他社などの動向
    • 社会ニーズ:商品やサービスの購買変動、顧客ニーズ
    • 事業の経営状態:売り上げ、生産率、経費や損失などの変動
    • 職場環境の状態:施設や設備の整備状況、清掃や修繕の状態
    • 人の心証:顧客満足度、従業員の仕事に対する意欲

    3.警戒レベルの設定と監視体制の構築

    最後に、物事を判断するための基準・レベルを設置をします
    対処不可能なレベル、対処を開始するレベル、優先して注視するレベルなどに区分すると良いでしょう

    その上で、脅威が引き起こされるリスクを、どのように察知するかの手段を決めます
    新聞記事やニュース報道、信頼できるWebサイト、取引先やパートナー会社との情報交換など
    また、どのような情報を注目するかも具体的にしておきます

    人の心証にあっては、アンケート調査、苦情・クレームの状況、日頃の会話の内容から察知できるようにします
    なお、SNSの投稿記事などは、信頼性が乏しいので、確実な "裏どり" や "ファクトチェック" が必要です

    ■ ”いざ!” という決心の仕組みづくり

    画像

    事業主や経営陣は、オーケストラの指揮者であり、船の船頭です
    指揮者がいなければ、オーケストラは満足な演奏ができません
    船頭がいなければ、船が進む方向が定まりません

    事業主らは、状況を判断し、何をするかを決心し、従業員を指揮・指導して事業を運営します
    平常・通常であれば、事業主らが存在し、機能しています
    しかし、指揮者・船頭が不在ならば、従業員は右往左往で事が何も進まないことでしょう
    また、事業主や経営陣が存在しても、機能していなければ存在していないのと同じです

    • 事業主らの不存在:死亡や行方不明など
    • 判断と決心するための手段や能力がない:連絡手段がない、昏睡状態にあるなど
    • 判断と決心をする権限がない:代理・代行者の未指定、権限の移譲規定がないなど

    事業主ら "指揮者の不在" はあっても、”指揮の不在・不存在" はあってはなりません

    そこで必要なのが、事業にかかわる誰もが判断・決心し、行動に移せる ”仕組み” を作っておくことです
    また、その仕組みは、いざという時にでも自動的に機能するように作られている必要があります

    例えば・・・

    • 事業主不在の場合の代理・代行者の指定
      事業主に不慮の事故などがあった場合の代行者として、次席者や部課等の長を事前に指定しておく
      この際、権限の範囲や権限行使の条件なども定めておく
    • 権限の移譲規定
      定款、就業規則、防災計画、BCPなどに、事業の運営や経営の権限の委譲規定を定めておく
      非常時の権限委譲があり得ることを全員が知っておき、権限移譲の際は全員に知らせる仕組みも必要
    • 事業の脅威となるリスクの監視体制
      脅威の判断の基となる情報の監視活動を、事業主や経営陣以外の者・セクションに担当させる
      代行者などに権限移譲された場合でも、判断に必要な情報収集は維持されるような体制を作る
    • 事態等発生時の初動対処の標準化
      突発的な事態等発生時の初期段階での行動基準を事前に定めておく
      事業主らの不在・不存在でも対処できる具体的な内容をBCPや防災マニュアルなどで示しておく

    以上のような非常事態を認知でき、その時の判断と決心ができる仕組みが必要です
    どんなに小さな会社やお店であっても、仕組みづくりは重要です

    ■ まとめ

    画像

    ”いざ鎌倉!” という言葉がありますが、これも、危機を危機と確信し、次のアクションにつなげるための言葉です
    鎌倉幕府に一大事があれば “いざ鎌倉に馳せ参じよう” との坂東武士たちの心意気を表したものと言われています

    被害は未然に回避し、危機に遭遇しても適切に対処したいと誰もが考えることです
    心意気はあっても、一大事が発生していることを認識できなければ何にもなりません

    そのため、鎌倉時代以前から武士たちは、独自の情報収集網を機能させ、何らかの兆候があるかどうかを精査し続けてきました
    科学技術力・情報収集伝達力が発達した現在も、やるべきことは同じです

    • どのような条件をもって、事業の非常事態だと判断するのか
    • 判断材料として、日頃から何を・どこを注視・監視する必要があるのか
    • どのような状況・どの時点で、対処の開始を決心するのか
    • ”いざ!” という判断と決心の仕組みづくり