事業資産が存在するだけではダメ!事業継続計画(BCP)における物と情報のあり方について
事業の運営・経営には、常に事業資産が必要です
災害などの非常事態時では、事業資産の損失をできるだけ防ぎ、確保・調達することがカギとなります
事業資産の中でも ”物” と ”情報” は、災害などの被害を受けやすく、消費・劣化しやすい資産です
また、防災という観点からも、物資と情報は重要な救援・救済資産として重要視されています
今回は、事業継続の戦略という観点から見た物と情報のあり方について考えてみます
■ 物と情報そのものが大切ではない
唐突ですが、平素も非常時も、物と情報そのものが大切なのではありません
「事業資産が重要と言っておきながら」と思われるでしょう
では、何が大切なのかというと・・・
物と情報の ”流れ” が大切
・・・ということです
いわゆる ”物流” と ”情報の送受” という流れのことです
災害発生時に物資が被災地に届かないという事象を見聞きされたことがあるでしょう
また、被災者に救援・救済情報を、どうにしたら早く伝えられるかなんてこともあります
物や情報は、多くあっても到達・入手できなければ役に立ちません
災害用資材庫に何万トンの食糧があっても、必要な人に渡らなければ、ただの在庫です
よって、物の備蓄や情報の内容だけに固執せず、”流れを作る・動かし方” も同時に考える必要があります
■ 見えている事物だけに固執しない
ここに興味深いお話があります
第二次世界大戦中のアメリカ軍は、どうすれば航空機が撃墜されないかという研究をしていました
戦闘に出た航空機の多くが、敵の銃撃で撃墜されていたからです
「どのように機体を強化すれば、撃墜されないのか・・・」
下の図は、帰還した航空機が被弾していた個所の記録を重ね合わせたものです
機体の赤い点が被弾した個所を示しています
この図を見ながら、ぼや~と見ていると・・・
「赤い点(被弾箇所)が多いところを強化すべきだろう」と考えがちになります
これについて、統計学者のエイブラハム・ウォールドが、驚きの見解を出しました
「強化すべき個所は、被弾が少ない操縦席付近、エンジン、尾翼付近の3箇所である」
「被弾した機体が帰還しているのなら、被弾した個所が原因で墜落することは少ない
一方、被弾していない・被弾が少ない個所を撃たれた機体は、墜落したと考えられる」
この話は、 ”生存者バイアス” とか ”選択バイアス” が物事の見方を変化させ、判断を曲げかねないというお話です
- 最も被害を受けている個所を強化すれば良いという先入観
→仮説を立てる段階で、目立つ事象にとらわれて先入観を持つようになる - 帰還した機体の被害データだけで解釈し、撃墜された機体の被害データが加味されていない
→先入観がある中で観察と分析を行うと、思い込んでいる方向に向かって結論を出してしまう - ”被害を少なくする” から抜け切れず、”被弾しても飛べる” という発想にならない
→ひとつの事や見方に固執すると、目的・目標がズレることがある
被弾しても落ちないのが "目的" であって、被害を少なくするのは "目標"
このことは、事業継続戦略・BCPの策定や見直し、教育や訓練の場においても同じことが言えます
- BCPは、自然災害や感染症の発生に備えた事業継続戦略を計画書にしたもの
→事業が中断する脅威・リスクは、自然災害や感染症だけではない - 想定する事業の被害は、過去の被害情報(映像・画像・文章)でけでは足りない
→事業を中断させる被害とは、見えている物理的な被害だけではない - 防災や減災、感染防止などに固執することで、大切な事業資産を浪費することがある
→事業を継続させることが目的であるところを、備蓄・強化することが目的となってしまう
■ 物と情報という事業資産を、どう考えるか
ネット上で公開されているBCPのひな形には、被害想定、事前対策と被害下の対処などが示されています
このうち、物と情報に関する項目が多く記載されています
- 被害想定
・インフラの中断・停止
・施設や設備の損傷
・通信の途絶 - 事前対策
・飲食物や資材の備蓄
・代替の物品や手段の整備
・リストや手順書などの整備 - 被害下の対処
・被害復旧
・物品等の調達
主だった事項は、こんな感じです
これらは、必ず考え抜いて基準を作り、それに基づいた実行が必要です
ただ、これら各項目の文面だけを見て判断し、対策を講じては不十分です
本当は、文面上に現れていない細かな物事があり、想像・連想することで明確になります
- インフラの中断等が許容できる時間・期間
- 備蓄の利用開始の条件、日・時間ごとの消費・損耗率
- 代替の通信手段、電気通信以外の連絡の要領
- 発信・受信する情報の分類や種類、発信の時期、情報共有の要領
- リスト等の使用要領、現場での修正要領
- 施設や設備が使用可能・不能となる基準
- 物品の調達先、調達・輸送の要領
これらは一例ですが、物や情報に関する事項は、それら単体だけを見ていてはダメです
- 時間の経過
- 量的増減と基準・しきい値
- 方向性と道のり
物や情報の一つ一つには、このような ”物事の流れ” や ”動き” が伴います
例えば、自動車を買う時は、車体だけを見て買うことはありません
その自動車でどこに行きたいのか、どうやって管理するのか、どんな楽しみがあるのか
自動車を運転する・利用することを前提にして、色々なことを考え・想像します
事業資産である ”物や情報” を考えるときも同様に、それらの ”流れ・動き” を同時に考えるようにします
■ 最後に:物は情報、情報は物
最後になりますが、なぜ、事業資産の ”人・物・金・情報” のうち、物と情報を一緒して話をするのかです
それは、物は情報であり、情報も物であるからです
- 飲食物資の備蓄量、保存期間、消費率、再調達にかかる時間と金額(物の情報)
- 施設の耐震強度、年間の維持管理費(物の情報)
- 設備の現有数、耐用年数と稼働実績、保守管理費(物の情報)
- 天気予報などの情報入手機材(情報の入手媒体)
- 電話やネット回線などの通信インフラ(情報の入手媒体)
- サービス利用者及び同家族の連絡名簿、職員連絡名簿(情報の記録媒体)
- リストや手順書(情報の記録媒体)
物を管理・使用するためには、物の特性や数量などの情報が必要です
情報も、それ単体では存在せず、記録媒体や入手・伝送手段などが必要です
この二つは、有形・無形のふたつの特性があり、密接な関係があります
”見えている事物だけに固執しない” は、ここにも当てはまります
また、物と情報そのものも大切ですが、両者の関係、流れや動きにも注意が必要です