BCPの策定が迷走する:目的と目標を明確にするポイント
目 次
BCPの策定を始めるとき、最初に考えるのが「目的」となります
すでに目的を定めて策定作業を進めている場合でも、この目的の設定に問題があると策定作業が迷走する可能性があります
今回は、BCPの目的を明確にするためのポイントを解説します
その前に、言葉の整理をしておきます
- 「目的」とは、最終的に目指す到着点
- 「目標」とは、目的に向けてなすべきことを具体的に定めたもの
目的が「点」であるのに対して、目標は「方向性と具体性」があることです
目的を明確にする3つのポイント
BCPの目的を明確にするには、考え方に次のようなポイントを押さえることが重要です
- 現実的に実現が可能
- 文字や言葉で表現が可能で具体的
- 目的は変わらない・変えない
① 現実的に実現が可能
「未来のことだから実現できないこともある」と考えるかとは思いますが、目的を定める作業においては、実現が可能なものとしなければなりません
実現が可能であれば、実現させるための活動ができますが、最初から実現不可能なものは何をやっても実現できませんので、目的とするには不適です
例えば・・・
- 実現可能な目的の例
- この計画の目的は、自然災害や不測の事故から人の命と財産を守る
- この計画の目的は、ハンディーキャップのある方に対する生活支援サービスを有償で提供する
- 実現不可能な(不可能と思われる)目的の例
- この計画の目的は、国内で地震を発生させないようにする
- この計画の目的は、不死の薬品を開発して提供する事業経営をする
あえて極端な例を挙げてみましたが、明らかに実現不可能な目的は、この後に続く「その目的に向かって何を・どうする」が想像できません(遠い将来には実現可能となるかもしれませんが)
事業計画やBCPなどの事業にかかわる計画は、その計画に基づく運営・経営に関する各種活動を具体的に行わなければなりませんので、現実的に実現可能な目的の設定は必須となります
② 文字や言葉で表現が可能で具体的
目的とは最終的に目指す到着点である以上、到着点が明確でなければなりません
自分一人だけの個人的な目的であれば、頭の中で何となく思い浮かべることで事足りるかもしれませんが、BCPは事業継続のための計画であるため、事業主自身だけでなく、従業員などの事業関係者に理解してもらわなければなりません
そのためには、目的とする内容が文章や対話で説明できて、読み手や聞き手が納得できるように具体的なものにする必要があります
- 具体性のない目的の例
この計画の目的は、人々が喜びそうなものを作成するなどの事業経営を行う
※NG:~そうなもの
なお、具体性を追求しすぎると、ここでは示す必要がない細部事項まで入れてしまいがちです
あくまでも目的という「到着点」がどこにあるかを示すようにします
③ 目的は変わらない・変えない
BCPを策定する意義は、災害や感染症などの発生においても事業を継続させるための戦略を事前に定めておくことにあります
そのため、BCPで示す目的がブレると、戦略そのものが成り立たなくなり、目的達成のための準備や備え、整備に費やした労力や資金が無駄になってしまいます
基本的に事業の運営・経営の目的が変わらなければ、BCPの目的も変わりません
事業を取り巻く環境や状況、事業資産(人・物・金・情報)に変化があり、BCPの内容と齟齬や矛盾が生じた場合でも、目的を変えるのではなく、細部事項を「見直し・修正」することで対応します
ただし、次のような場合(一例)は、当初定めた目的が変わることがありますので、その際は新たなBCPを作り直すことになります
原則として「目的の変更はありえない」ということになります
- 業種の変更
食料販売業だった主要事業を食料輸送業に変えたなど - 事業所の所在変更
地方にある事業所が首都圏に移転したなど - 業務形態の変更
介護サービス事業で訪問系だった業務形態を入所系に変えたなど
■ 目的があるから方針と目標が決まる
冒頭に言葉の整理をしましたが、目的が定まると、次に定めるべきものが見えてきます
かつてアメリカ合衆国大統領は「月に人間を送る」という目的を表明しました
その目的のため、どちらの方向に向かって、何を、いつまでやらなければならないかなどを事業計画として取りまとめ、予算をとり、計画どおりに事を進め、最終的には月面着陸に成功しました・・・アポロ計画という事業計画です
アポロ計画とは目的も内容も全く異なりますが、BCPも事業計画の一つです
事業計画には目的があり、その目的に向かって方針があり、目的達成までの過程にいくつもの目標が方針に沿って設定されます
このように、目的は現実的に実現可能で、誰もが分かるように明確で、ひとたび定めたなら変えることがない性質でなければ、方針も目標も定めることができません
■ まとめ
以上のようにBCPの目的を明確にするには、次のような3つのポイントがありますので、策定の際の参考にしてみてください
- 現実的に実現が可能
- 文字や言葉で表現が可能で具体的
- 目的は変わらない・変えない