使えないマニュアルは捨ててしまえ:見直しは策定するよりも重要かも

皆さんの職場には、マニュアルや手順書、チェックリストと呼ばれるのもが多くあるかと思います
業務の標準化や効率化を目的に作成されているはずです

ところが、マニュアルなどが揃っていても、使わないことがあったり、使えなかったりすることがあります
私も現職自衛官だった頃、勤務する職場でも同じようなことがあり、時には仕事に支障が出ることもありました
危機管理の達人である自衛隊でさえ、そんなことが生起するほど、世間一般に共通した課題であるかと思います

今回は、防災計画やBCP,各種のマニュアル、日常業務で活用している手順書などが使えなくなる課題を、どうしたら回避・防止できるかについて解説します

■ アップデートしないは、無いも同じ

介護施設における新型コロナウィルス感染症の予防及び発生時の対処マニュアルを例に話をします

【介護施設職員Aさんの談①】

私の施設では、マニュアルを策定したのが2020年の初頭で、当時は未知の感染症に対抗できるノウハウや経験がありませんでした
政府や行政が発信する情報のほか、医療機関の見解などを見聞きして感染防止策を講じてきました
(それは本当に大変でしたぁ)

また、職員全員に対して感染防止への警戒を促すとともに、誰が・何を・どのようにすべきかの手順を決めました
当然、マニュアルも作成して普及もしました
(結構活用しましたよ~)

今では、何が有効な対策なのかが分かってくるとともに、何度かの変更・修正を経て、現在の手順やマニュアルが定着しています
(そういえば、作成してから何か月か経ってますね~)
また、日々のルーチンであれば、マニュアルなしでも行えるようになっています
(みんな、マニュアル抜きでも仕事ができるほどになったね~)

知識と経験が積み重なることで、感染防止が徹底され、そのための業務などが定着することは喜ばしいことではあります
何事もなく平穏な日々が続く限り、マニュアルなど抜きで効率的に業務が進み、安定した事業の運営・経営ができることでしょう

ところが後日、こんなことがありました

【介護施設職員Aさんの談②】

ある日、職員の一人が熱発で休んだ同じ日に施設利用者のBさんも発熱してしまいました
急いでBさん用の部屋を準備し、必要な資器材の運搬、職員全員の再検温、感染防護服に着替えるなど大変な状況でした
(熟練職員の一人が欠けていたので、さらに大変でした)

その時にマニュアルを確認しながら対処したのですが、マニュアルに書かれている資材が倉庫になかったのです
(資材がなかったのか、マニュアルが間違っていたのか・・・)
また、かかりつけ医師に電話をしようとしたのですが、マニュアルの電話番号が古い番号であることに気が付かず、バタバタしました
(結局、電話帳データ(Excel)を探したり、他の病院に電話したりしました)

とりあえず、診察の結果、職員も利用者さんも新型コロナウィルスは陰性だったので良かったです
しかし、マニュアルはあっても・なくてもバタついたことは間違いはありません
(このマニュアル、本当に必要なの?)

このケースについて良かった点は・・・

  • マニュアルが策定されていたこと
  • マニュアルの存在と価値を職員が理解し、定着されていたこと
  • マニュアルを活用して行動したこと

一方、悪かった点は・・・

  • マニュアルどおりの準備態勢(資材管理など)ができていなかったこと
  • マニュアルがアップデート(更新)されていなかったこと
  • 古いマニュアルであることで、職員がマニュアルを信用しなくなったこと

マニュアルを策定した時とアップデートした時は、最新かつ、正しい内容が記載されていいます
ですが、時間が経つにつれて、人・物・金・情報(いわゆる ”事業資産” というもの)に変化があるのに、アップデートされないままとなっていることが多くあります

★ アップデートされていないマニュアルは、いざという時に ”使えないマニュアル” と化します
★ そして、どんなに正確で最新のマニュアルであっても、使う者の理解と信頼を失えば ”使わないマニュアル” となります

アップデートしないマニュアルは、形として存在していても ”無いものと同じ” です

使えないマニュアル → 使わないマニュアル → 捨てても支障のないマニュアル

使えないマニュアルは、いざという時に混乱を招くだけなので、捨ててしまえ!!

■ 見直しとアップデートの日常化

画像

使えないマニュアルは捨ると言いましたが、人と事業に必要だと考えて策定したマニュアル類ですから、そう簡単には捨てられないでしょう
また、古いマニュアル類であっても、利用価値のある内容が残っているかもしれませんので、内容の ”取捨選択” が必要となります

この取捨選択こそが ”見直し” であり、記載されている内容を "捨てる” と ”アップデートする” という作業になり

防災計画やBCPに基づいて作成した手順書やマニュアルなどは、放置しておくと見直しやアップデート作業がおろそかになります
その理由としては、次のようなことがあります

① 日常の業務が忙しくて対応できない
② 頻繁に使用するものではないなので、存在を忘れがち
③ 見直しやアップデートの担当が誰なのか、はっきりしていない
④ 見直しやアップデートの必要性を感じない

①と②の原因は、マニュアル類の見直しなどを特別な業務として取り扱っていることにあります
③は、取り決めごとを明確に決めてないため
④に至っては、マニュアル類の使用・活用についての理解が薄いか、マニュアル類の信頼性が失われているかです

見直し等の作業を非日常的な業務、特別な業務と言う位置づけにより

  1. 信頼性を欠いたマニュアル類が存在してしまう
  2. 信頼性がないから、マニュアル類は使えない・必要ないモノと解釈される
  3. マニュアル類の使用・活用についての理解が薄くなる
  4. 見直し等の作業の必要性も理解できなくなる
  5. よって、見直し等の作業は非日常的・特別な業務と化す

このような、いつまで経っても見直し等が行われない悪循環が生起します
これらを回避・解消するための施策には次のような方法があります

  • 見直し等の必要性は、全職員を対象とした教育や研修、訓練の機会を通じて理解させ・理解を深めさせます
    例えば、BCPを策定した後に教育を行い、防災訓練の機会にマニュアルを活用して行動させるなどです
  • 見直し等の作業を特定一人に割り当てるのではなく、担当業務別やセクション別などで区分して割り当て、関連する日常業務と密着させることで、特別扱いの作業にならないようにします
    例えば、マニュアル内の緊急連絡先一覧の見直し等は、各種連絡先名簿や職員名簿などを管理している部署・担当者がそれらの名簿とともにマニュアル内の一覧表も手直しするなどです

マニュアル類の見直し作業を職員全員の業務に関連付けて日常化させるようにすると、マニュアル類の必要性のさらなる理解促進にもつながります
また、複数名での作業ですので、項目の一つ一つが精査されるとともに、お互いに確認し合うこと(クロスチェック)も可能となり、より使いやすいマニュアル類となることが期待できます

【参考】寄せ集め型マニュアル類

マニュアル類は、何かの業務や活動を行う時に ”どうすれば良いのか” 、”確か、〇〇〇〇だったよな?” という時にサッと取り出し、該当のページを直ぐに見つけて確認できるように作りこむことが理想です

根拠となる詳しい内容を確認したいのならば、他の書類やデータ、書籍などを時間をかけて確認すればいいのですが、直ぐに・簡単に確認したいときに活躍するのがマニュアル類です
したがって、マニュアル類は、探しやすさ・見やすさを追求する必要があります

とは言っても、マニュアル類の作成や見直し作業を担当者一人に任せておくと、その人にとっての探しやすさ・見やすさでマニュアル類が作られてしまうので、複数の担当者を決めて行うべきでしょう

また、マニュアル内の項目別に担当者ごとで行っている業務と関連づけて割り当てれば、各項目ごとのページが出来上がります
それらを寄せ集めてファイル化すればマニュアル類が完成しますし、アップデートも項目別に担当者が、その都度ページを差し替えれば良いわけです

もしも、複数の項目にまたがっている内容をアップデートする際は、担当者同士で "この部分を、こういう風にアップデートするよ” と伝えれば、同時進行でアップデートもできるでしょう

余談ですが、このようにマニュアル類の項目ごとに担当する人からデータ(ページ)を寄せ集めて行う作業を ”編纂(へんさん)作業” と言い、昔から万葉集や古今和歌集などが作られる際の形態で、広範多岐・数の多いデータを取りまとめるのに効率の良い手段となっています

■ まとめ

画像

”飛べない豚は、ただの豚だ” という名言(?)がありますが、使えないマニュアルに至っては、もはやマニュアルではありません
しかし、まだまだ使いどころが残っているはずですので、見直しとアップデートをすることで生き返らせるべきです

  • 見直しやアップデートがおろそかになる理由
    • 日常の業務が忙しくて対応できない
    • 頻繁に使用するものではないなので、存在を忘れがち
    • 見直しやアップデートの担当が誰なのか、はっきりしていない
    • 見直しやアップデートの必要性を感じない
  • おろそかになる理由を作った原因
    • マニュアル類の見直しなどを非日常的で特別な業務として取り扱っている
    • 取り決めごとを明確に決めてない
    • マニュアル類に対する理解が希薄・信頼性を失っている

こんな状態が職場にありませんか
これを回避・防止するためには、次のような職場環境を作ってください

  • 全職員を対象とした教育や研修、訓練の機会を通じて理解を深めさせる
  • 見直し等の作業を担当業務別やセクション別などで区分して割り当て、関連する業務として日常化させる

そして、見直したデータだけでなく、従業員同士が寄せ集まる関係となるように業務を割り当てて管理することが事業主・経営人の仕事です
その結果は、健全性のある職場環境として表れ、事業で提供する商品やサービスの質の向上も期待できるなど、色々な面でプラス効果となります