お世継ぎ問題は今も昔も変わらず頭が痛い:BCPと事業承継

政界には ”〇〇派” とか ”〇〇会派” というものが存在します
TVなどでも派閥といったワードをよく耳にします

この記事を書いている頃は、とある政党の派閥・会派が混沌とした状況にあります
それは、”跡継ぎ・後継者” がいないことに原因があります
突然、リーダーを失った組織は、その事態に備えて何をしなければならなかったのでしょうか

今回は、事業の跡継ぎとBCPの関係について考えてみます

■ お世継ぎは問題は、昔からの課題

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日本史に興味がある方はご存じでしょう
昔から、お世継ぎ問題は家族内の問題だけでなく、国家規模の問題でもありました

組織のリーダーである、朝廷の天皇、幕府の将軍、旧家族法上の家長の血を絶やさないことが目的でした
なぜなら、一人のリーダーに権力・財産・名声が集中していたからです

古代・中世は、出生率や生存率、平均寿命が低かったので、リーダーが若いうちから対策が必要でした
”早く男子を産め” とか、”側室を持て” とか、現代なら完璧なハラスメント発言が、この頃は普通のことでした
実は、このような考え方や制度は、終戦まで ”家督制度” という形で残っていました

江戸時代では、世継ぎ(後継者)がいないまま家長が亡くなると、その家は取り潰し、財産没収なんてこともありました
つまり、後継者の不存在は、家族・親族・部下一族が、その立場や生活を失うことになります

さて、現代においてはどうでしょう
子がいなくても、財産の相続は法定相続人か、遺言書で示した人が継ぐことができます
子が女子であっても、結婚時に氏の選択ができますので、家の名を継ぐことができます
戸籍や住民票の筆頭者だからと言って、特別な権利を持っているわけではありません
そういう状況があって、後継者という問題は、国民全員の共通の問題とはなっていません

ただ、一般的には問題とならないだけで、特定の場合は、依然として大きな問題となることがあります
冒頭の政界のお話のほか、事業を運営・経営している方には、後継者という課題があるのです
特に、リーダーや事業主が、強力なリーダーシップで皆をけん引している場合は、更に深刻な課題となります

剛腕を鳴らす会社の社長が急死して、会社内は大混乱、明日からどうすればいいのか
後継者は、副社長でいいのか、専業主婦の妻の方がいいのか、まだ大学1年生の一人娘に代を譲るべきか
社長がワンマンすぎて、実は、何も知らされていない副社長、次期社長で務まるのか
副社長以外の適任者はいるのか、知識や経験、経営の力量や人脈などがあるなのか
誰であれば、事業を引っ張ることができるのか・・・・

昔からある ”お家のお世継ぎ問題” は、”事業承継” という現代の会社などの課題となっています

■ 承継は、後継者という人だけではない

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とある会社の剛腕社長の後継者、名目上の跡継ぎだけでは事業が成り立ちません
剛腕と呼ばれるだけの知識や能力、経験などがあったのですから、それらを後継者が持ち合わせていることに期待します

でも、そのような能力などを持ち合わせていたとしても、先代のような判断ができ、行動できるかどうか分かりません
どのような人物なら、この会社を引っ張ることができるのか・・・
そもそも、剛腕社長は、どんな考えがあって後継者を決め、養成していなかったのか

今現在、とある会派が揉めている原因は、このような背景があるからだと推察されます
おそらく誰もが思ったことでしょう ”何で、後継者を指名して、育てなかったの!?”

組織の中で重要な立場にいる方は、自分なき後も自分と同じような人物を確保しておかなければなりません
しかも、車のスペアタイヤのような一時的なものではなく、可能な限り自分のコピーが必要となります
自分なき後も、組織を動かし、事業を運営・経営して存続させることができる人物です

最近では ”事業承継” という言葉が、事業の経営課題として、あちこちで言われるようになっています

社長などの立場を引き継がせるのだけでなく、事業の運営・経営そのものを引き継がせるという課題
事業を運営・経営するノウハウや考え方、人脈など、形や言葉にできない事業資産を継承するという課題

事業主にとっては、頭が痛くなる課題でしょう

■ 人を育てるのも事業主の使命

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事業のキーマンとなる人物、自分なき後も事業を運営・経営することができる人物
そんな人物が、ご自分の会社などにいますか?
いざという時に ”全て任した” といえる人物がいますか?

今やっている仕事や事業の経営などで忙しいこととは思います
ですが、事業を任せられる後継者、一時的でも任せられる代行者を決めて、育てているでしょうか
また、そんな人物に対して、”いざとなったら、後は任せた” 程度のことは言ってあるでしょうか

言われてなければ、後継者や代行者としての自覚がありませんので、いざとなった時に何もできないでしょう
自覚がなければ、自分のことだけに集中し、事業全体の運営や経営についての勉強をしないことでしょう

何度も例として挙げている、とある会派も同じようなことが起こっているのでしょう
元代表が後継候補者を指名せず、その候補者に何も伝えていないことに問題の原因があります
”仕事は見て覚えろ” 的な感じであったのなら、教え方が悪く、誰もついてきません
”言われなくても分かっているだろう” 的な感じであれば、自覚がありませんので勉強しません
そんな状態で ”あとは、仲良くよろしくね~” となれば、周りの者は悲惨な目に遭います

社長などの事業主は、事業を立ち上げて軌道に乗せて、事業と従業員と顧客を守る使命があります
それと同時に、人を育てることは、使命を全うするための責務です
自分に人を育てる能力があろうがなかろうが、育てることは事業主の仕事の中の一つです

■ BCPと事業承継

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事業に被害を及ぼす何らかの事態・事象の発生に備えて策定しておくのが事業継続計画(BCP)です
名前のとおり、事業(Business)を 継続(Continuity)させるための戦略を計画書(Plan)として落とし込んだものです

事業に及ぼす被害には、大きく次のようなものがあります

  • 施設や設備などの物的な被害
  • 事業活動上の仕入れと売却・サービス提供のルートであるサプライチェーンの被害
  • 事業の運営の主体である顧客や従業員などの人的な被害

このうちの人的被害として、事業主を失った場合にどうしたらいいでしょうか
事態発生時の初動は、その場にいる者、行動できる者が皆を引っ張ればいいかもしれません
しかし、被害が出た事業を立直して、顧客の利益と従業員の生活を守るための経営はどうでしょう

この点で、事業承継の考え方と同じことが言えます

  • 事業主を失ったら、誰が後継者・代行者となるのか
  • 後継者・代行者には、どんな権限が与えられ、どんな条件で権限の行使が開始されるのか
  • その後継者・代行者には、何を伝えておかなければならないのか
  • その後継者・代行者は、事前に何を知っておいて、どのような備えが必要なのか

これらのことを、何事も起こっていない平常時に考えておくことが事業主の使命です

事業の運営・経営について考えた内容のことを ”事業戦略” といいます
戦略を誰もが確認できるように組み立てたものが ”事業計画” です

事業を後継者に引き継がせるために考えた内容が ”事業承継戦略” であり
その考えを確認できるようにしたものが ”事業承継計画” です

災害等の被害発生時の事業の運営・経営について考えた内容が ”事業継続戦略” であり
その考えを確認できるようにしたものが ”事業継続計画(BCP)” です

名前は違えども、事業の運営・経営をどのようにするかという戦略と、具体的な事項を示した計画に違いはありません

剛腕社長は、将来のことを考えて、後継者を選定し、どのように育てるべきかの戦略を立てます
その戦略を実行するため、誰を後継者に指名し、どのような教育を、どういう過程で行うかの計画を作ります
そして、関係者全員に対して、後継者の指名と養成について周知し、必要なサポートをお願いします
時には、好意にしている顧客にも後継者を紹介し、今後のお付き合いをお願いする必要があるでしょう

事業主だけで事業承継を進めることは、かなり困難なことです
後継者本人の自覚とやる気のほか、周囲の関係者の理解と協力が必要です
人を教える・育てることが苦手なら、なおさら、周囲の者の理解と協力が必要となります

■ 参考:人を育てる側のあり方

最後に、人に教える・人を育てる、一つの方法・メソッドを紹介します
これまでのお話の中で、周囲の者の理解を得るということにも使える考え方です

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
=自分が自らやって見せ、やり方などを言って聞かせて、その上で、本人らに実際にやらせてみて、結果の良いところを見つけて褒め、本人らが成功体験として感じてもらわなければ、人は動かない
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。

=話し合って、本人らが言うことをよく聴いて(聞いて✖)、本人らを認めて仕事などを任せてやらなければ、人は育たない
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

=本人らが自主性をもって行動していることに感謝の心で見守り、時には、言葉として感謝し、本人らを信頼しなければ、人の精神と能力は成熟しない

旧日本海軍連合艦隊司令官 山本五十六の言葉より

人に自覚して動いてもらうためには、託す側・教える側の ”気の持ち方” と ”言動のあり方” が非常に重要だということです