非常事態に孤高のヒーローであってはダメ!事業の孤立化は大変なことになる
災害等などの非常事態ににおける事業継続の戦略やBCPの主体・主語は、”自分らの事業” です
特に、BCPで示す事項や行動は、自分らの事業を継続させるために、誰が・何を・どうするが示されています
第三者や部外者が主体・主語となる規定や文面は、ほとんどないことでしょう
そのような戦略やBCPであることが間違っているわけではありません
むしろ、自分らの事業のことですので、自分らの事業が主体・主語がなって当然のことです
ただ、注意していないと、自分らの事業にとって大変なことになる可能性を秘めています
今回は、事業継続の戦略、それに基づくBCPの策定と運用で気を付けなければならないことをお話します
■ 事業を孤立させない
イメージしやすいように、一例をあげて説明します
お客さんが来店・来所しているお店や会社でのお話です
ある日、緊急地震速報がスマホから発せられた直後、かなり大きな地震が発生しました
揺れが収まり、建物に所在する従業員がお客さんの安全確認、火元や施設の点検を行いました
負傷者なし、火災もなく、建物内にいることは可能と判断しましたが、停電が発生しています
とりあえず、お客さんの対応をしつつ、引き続き、被害の確認と散乱物の片づけ始めます
2時間ほど経過しましたが、停電が継続、電話も不通、メールも送っても返信が来ません
外出中や自宅にいる従業員の安否確認ができず、お客さんも家族等への連絡ができません
そろそろ、お客さんと従業員をどうするべきかを決める段階が迫っています
思い切って、「地震災害発生時のBCPを発動する」 と宣言して活動を開始しました
BCPに示される手順や要領で、お客さんや従業員の身を保護しつつ、事態の長期化に備えます
そんな中、お客さんの一人が体調不良を訴えてきたので、従業員が対処します
こんな状況が、いつまで続くのか、次第に皆の間に不安が広がってゆきます・・・・・
この後、どんなことをイメージされますか
- 自分を含めた従業員で何が・いつまでできるのか・・・
- お客さんは、いつ帰ってもらえればいいのか・・・・
- 中断している業務を再開できるようになるのはいつなのか・・・
- 他の従業員は出勤してくるのだろうか・・・それはいつなのか・・・
事態の長期化が懸念される状況下では、このような考えがいくつも出てきます
その結果、何が良策なのか、どれから処置すれば良いのかを判断することを恐れるようになるかもしれません
- この先のことを考えると、心細くなる
- 自分らができることに限界を感じ、次の手が打てない
- 助けを求めたいが、助けがいない・誰に助けを呼べばいいのか分からない
これらには、以下のような要因があります
- 防災等計画やBCPに示される手順や要領には、自分らが行うことだけしか示されていない
お客さん、会社の外にいる従業員、取引先などの人たちのことが書かれていない - 自分らだけで頑張ろうとする
連絡や情報共有する相手がいない・思いつかない
いざという時の ”助け” の存在と助けの呼び方が明確でないことが、心理的な不安につながります
さて、災害対処や被害復旧の概念に ”自助・共助・公助” というものがあります
- 自助:自分らのチカラで行う活動
- 共助:周辺住民や協力者のチカラを借りて行う活動
- 公助:警察や消防、自衛隊など、行政が行う行動・活動
当初は自助で対処し、被害の規模が大きく・広く、長期化の可能性がある場合は、共助で対処しつつ、公助を待つ
つまり、自分らだけで対処するのには限界があるので、限界に達する前に助け合う・助けを呼ぶことが重要となります
お客さんや従業員、事業そのものを孤立化させて何もできなくなる前の助け合い・助けを呼ぶことも考えておかねばなりません
はじめに言いましたとおり、一般的なBCP策定の解説・ひな形は、主体・主語が自分らです
これにより、自分らだけで頑張り、限界に達しても、なお頑張ってしまうような恐れが生じます
そこで、日ごろからの態勢や手順等の整備が重要となります
- 施設外に所在する職員の参集基準と行動要領
災害等の状況と従業員個々の事情に応じ、連絡を待たず、個々の判断で行動する基準と要領を定めます - 限界となる基準
建物に所在する人員や資器材だけでは重要業務が継続できなくなる限界点を明確にします
人数、数量、時間などの数値で表しておけば、判断に迷うことなく、次の行動をとりやすくなります - 自分らの状況を発信する態勢
電話やネットが不通でも、建物外に連絡用掲示板を設置するなど、自分らの情報を発信する手段や要領を定めます
特に、事態の規模が大きい・広範囲であればあるほど、早い時期からの着手が重要です - 自治体や他事業所との情報交換
自分らの状況を把握してもらい、助けが必要な時に求めることができる態勢を作っておきます
この態勢づくりは、自治体の窓口や担当者、取引先などとの平素からの交流がカギとなります - 周辺住民との協同
いわゆる ”お互いさま” の活動で、自分らだけでなく、周辺住民の救援・支援も考えておきます
自分らの事業の不足と充足、周辺住民の不足と充足を持ち合わせることで、地域単位で生き残ることができます
東日本大震災の時も、会社と周辺住民が協力し、大きなチカラとなって活動した例があります
平素からの ”ご近所づきあい” も重要な事業継続戦略のひとつです
このように、自分らの事業を孤立させず、他のチカラを借りる・自他の力を合わせる態勢と基準を決めておくことが重要です
そこには、”自分ら・自分らの事業” が主体・主語ではなく、”他の人・周りの人、他の事業・周りの事業” が主体・主語となるはずです
■ 人を孤立させない
もう一つ注意すべき事項があります
それは、”人を一人にさせないこと”
単に ”一人にしない・一人で居させない” だけでなく、気持ちの上でも一人にさせないということです
- 身近にいる人を落ち着かせつつ、一緒の行動をとる
従業員らだけでなく、来店・来所中のお客さんも不安で、中にはパニックになっている方もいるかもしれません
事態の対処で大変な状況であればあるほど、お互いに声を掛け合い・気づかいをし合うことが大切です
航空会社のCAによる対処にも、乗客を落ち着かせるため、寄り添う気持ちを持って対応する旨の規定があります
BCPにも、身近にいる人たちを落ち着かせるための行動基準が必要です - メンタル面のケアも常に行う
災害等発生当初は、気強く頑張って活動すると思いますが、時間経過とともに不安などが湧き出てくるものです
従業員らも家族や自宅のことが気になっているはずで、見通しがつかなければ、更に不安が増すことでしょう
BCPには、事態の長期化に伴うメンタル面の確認とケアの要領についても示しておくべきでしょう
非常事態の継続下において、”孤立” を感じさせない気遣いと活動が非常に重要です
ミニコラム【なぜ自衛隊は災害時に強いのか】
私は、元自衛官です
現役の時、”部隊行動” ということを教えられ、常に意識していました部隊行動とは、任務などで行動する際は、一人の指揮官の下に複数の隊員が集団で行動することです
その行動要領は、入隊初期の教育や訓練のほか、部隊においても継続して訓練します
BCPのような手順書やマニュアルを見なくても、体が自然と動くようになるまで、練度を上げます部隊行動をとる目的は、集団のチカラで確実に任務を遂行するだけではありません
”同じ状況に置かれた同僚が隣に存在する” ということが、個々に落ち着きさを保たせることができるからですつまり、自衛隊が出動するような非常時にあっても、隊員個々が孤立しない仕組みが自衛隊にはあるのです
そして、物理的にも精神的にも、隊員を孤立させないようにするのが、部隊指揮官の責務というわけです
■ 非常事態下の孤立化は大変なことになります
大規模な災害による非常事態においては、大半が建物や設備などの物的被害が伴います
それらによって生活や仕事が正常でなくなることで、人の心には大きな影響を及ぼします
事業も人も、限界を超えると何らかの助けを必要とします
新型コロナウィルス感染症のまん延の時も同じような状況でした
物的被害は伴いませんが、人への被害が大きいため、生活や仕事が激変、心への影響も大変大きくなりました
この事態もまた、事業や人が限界を超えると何らかの助けを必要とし、孤立化は危険な状況にありました
- 自分らの事業を孤立させないように "他のチカラを借りる・自他の力を合わせる” 態勢と基準を決めておく
- 気持ちの上の ”孤立” を感じさせないメンタル面のケアも重要
物理的にも精神的にも、人と事業を孤立させないようにするのが、事業主・経営陣の責務です
そして、その方針や手順などは、BCPなどに組み込むことを強くお勧めします